Created on September 17, 2023 by vansw
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「はい、わたくしはまた必要に応じて、あなたの前に姿を見せることになると思います」と子易 さんは言った。「これから先は、このようにあなたのお休みになっている夢の中に現れるのでは なく、現実の生活の中で、昼日中、面と向かってお話しすることになると思います。 つまり、な んと申しましょうか、幽霊のようなものとしてです。 そしてそのようなとき、わたくしの姿はあ なたの目にしか見えませんし、わたくしの声はあなたの耳にしか聞こえません。 わたくしのそう いう現れ方は、添田さん、 あなたにとって居心地が悪かったり、気味が悪かったりするものでし ょうか? もしそのようであれば、また別の方法を考えますが」
「いいえ、それでけっこうです。 いつでもお好きなときに姿を見せてください。気味が悪いとか、 そんな風に思ったりはしません。むしろ逆に子易さんからそうして指示をいただけるのは、私に とって、そしてまた図書館にとって何よりありがたいことです」
「はい、ありがとうございます。 そう言っていただけると、安心できます。 そして、ああ、言う までもないことでしょうが、このことは他言無用に願います。 死んだはずのわたくしがこうして 姿を現すというのは今のところ、わたくしと添田さんとのあいだだけの内緒のことにしておいて ください」
「わかりました。 決して誰かに話したりはしません」
そして夢の中の子易さんは姿を消した。 添田さんはそのまま眠ることができず、布団の中でま んじりともせず、子易さんの語ったことを何度も復唱しながら、夜が明けていくのを待った。
私は添田さんに尋ねた。
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