Created on September 17, 2023 by vansw

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いささかの手を打っております。 この年齢になりますと、いつ自分がこの世からいなくなってし まうかわからないという思いは常に持っておったからです。 図書館のわたくしの執務室のデス クの一番下の抽斗に小さな金庫が入っています。 三桁の暗証番号を合わせて蓋を開くようになっ ていますが、番号は491です。明日の朝出勤されたら、どうかその金庫を開けてください。 金 庫の中には土地の権利証や、遺産の処理に関する遺言状など、いくつかの大事な書類が入ってお ります。これは弁護士の井上先生井上先生のことはもちろんご存じですね――に連絡を取り、 あなたから直接手渡してください。 彼が諸事全般、適切な手続きをとってくれるはずです。


またその他に、図書館の運営に関する指示を収めた青色の封筒が入っております。 封筒の中に は、わたくしの後継の図書館長を選ぶ方法を記した手紙も入っています。 それを井上先生立ち会 いのもと、 あなたが理事会で読み上げてください。よろしいですか?」


「財団の理事会を招集し、 井上先生立ち会いのもとに、青色の封筒を開封し、私が読み上げれば よろしいわけですね?」


「はい、そのとおりです」と子易さんは言った。そしてこっくりと肯いた。「理事全員が集まり、 弁護士立ち会いのもと、あなたが指示書を読み上げる、それが要点になります」


「承知いたしました。 お言いつけ通りにいたします。 金庫の暗証番号は491でしたね」


「はい、それで間違いありません。今日あなたにお伝えする用件はそれだけです。 こんな夜中に お邪魔して、まことに心苦しいのですが、わたくしにとっては重要な用件であったもので」


「いいえ、そんなことはおっしゃらないでください。私としてはたとえどのようなかたちであれ、 子易さんにまたお会いできて、お話ができて何よりでした」


349 第二部