Created on September 17, 2023 by vansw

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私は何かの気配を感じてはっと目覚め、すぐ目の前に子易さんがおられることを知り、慌てて 起き上がろうとしましたが、子易さんは両手を軽く挙げて押しとどめました。


「いいから、そのまま横になってらっしゃい」と子易さんは優しい声で言いました。 だから私は そのままそこに横になっていました。


『今日はあなたに少しばかりお話があって来たのです」と子易さんは言いました。 「ご存じのよ うに、わたくしはもう死んでしまった身ではありますが、 決して怪しいものではありません。 あ なたがよくご存じの子易です。 だから怖がったりしないように。 いいですね?」


私は黙って肯きました。 死んだはずの子易さんを前にしてもべつに怖いとか、そんなことは思 いませんでした。そのときは「これは夢なのだ』と微塵も疑いませんでしたから」


みじん


「死んだ身でありながら、あなたの前にあえてこのように姿を見せたのは、どうしてもお伝えし なくてはならない、いくつかの大事な用件があったからです」と子易さんは申し訳なさそうに言 った。「図書館に関する用件です。 ですからこうしてあなたの睡眠に割り込む必要があったので す。こんな夜分、おやすみのところ、まことに不躾で申し訳なく思うのですが」


ぶしつけ


添田さんは首を振った。 「いいえ、そんなことは気になさらないでください。 必要な用件であ れば、いつでもご遠慮なく声をかけてください。 喜んでお話をうかがいます」


「はい、あの図書館の将来のことを、あなたもいろいろ案じておられることと思います。そのお 気持ちはわたくしにもよくよくわかっております。 心配なさるのは当然のことです」と子易さん は言った。「でも添田さん、不安に思われることはありません。 それについてはわたくしなりに


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