Created on September 17, 2023 by vansw
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うに一人きりで人生を終えてしまわれたことを、悲しく思いました。 結局のところ子易さんは奥 さんとお子さんを亡くされた衝撃から、最後まで立ち直ることができなかったのだと思います。 人目にはつかなくとも、常にその重荷を胸に抱えて生きてこられたのです。
またそれと同時に、子易さんを失った図書館がこれからどうなるのかということについても、 憂慮せずにはおられませんでした。もちろん自分が職を失うかもしれないことも、私個人にとっ て大きな問題になります。 しかしそれにも増して、この魅力的な小さな図書館が、 相応しくない 人の手に委ねられ、好ましくない方向に変質していくかもしれない、あるいは熱意を欠いた人の 指揮の下で今ある活発な生気を失い、空しく荒廃していくのかもしれない。そう考えるとつらく てたまらなかったのです。 私についていえば、たとえ図書館での職を失ったとしても、夫の給与 でそれなりに生活していくことはできます。 しかしこの素敵な図書館が今あるようなものでなく なってしまうかもしれないと思うと、耐えられません。
子易さんの葬儀が終わり、遺骨が町のお寺の墓地に納められ、しばらくしてからのことです。 図書館の行く末について、先ほど申し上げたようなことを一人であれこれ案じているとき、 ある 夜私は子易さんの出てくる夢を見ました。 長くてはっきりとした夢でした。目が覚めてからも、 夢だとは思えないほどでした。 あるいはそれは実際に夢ではなかったのかもしれません。 しかし そのときは、きわめて鮮やかな夢だとしか思えませんでした。
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その夢の中で、子易さんはいつもの身なりをしておられました。例の紺のベレー帽に、チェッ クの巻きスカートです。 そして枕元に座って、私の顔をじっと覗き込んでおられました。まるで 私が目覚めるのを、長い間そこで静かに待ち受けていたみたいに。
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