Created on September 17, 2023 by vansw

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「あまりにも唐突な、 突然の出来事でした」と添田さんは言った。「子易さんはいつもお元気そ うに見えましたし、七十五歳になっておられましたが、体調の不調を訴えられたこともありませ ん。 たしかに多少肥満気味ではありましたが、食生活にも気をつけられ、定期的に郡山の病院で メディカル・チェックを受けておられました。また足腰を鍛えるために近所の山をよく散策され ておられました。ですから子易さんがそんな散策の途中に心臓発作を起こして急逝されるなんて、 にわかには信じがたいことでした。その知らせを聞いて多くの人が驚きましたし、私もまたショ ックを受けました。 なんだか建物の太い柱があっさり取り払われてしまったような、そんな虚脱 感に襲われました。


私は人間的に子易さんのことが好きでしたし、また尊敬もしておりました。 一人きりで孤独に 生活しておられることを私なりに案じてもいました。 余計なお世話かもしれませんが、子易さん はもう一度家庭を持つべきだと感じていたのです。 というか、子易さんは安らかで温かい家庭を 持つべき方だったのです。 親密な家族に囲まれて、心優しく生活なさるべき方だったのです。 人 間的にも社会的にも、それに相応しい資格を持っておられましたし。 ですから私は、彼がそのよ


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