Created on September 17, 2023 by vansw
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れていない古い醸造所を、図書館として活用するために町に寄付されたのです。それが今から十 年ばかり前のことでした。 そしてちょうどその時期に、私は縁あってこの町に越してきたのです。 町が運営していた公共図書館の建物が老朽化し、以前から何かと問題になっていたのですが、 町には建物を補修するだけの財政的余裕がありませんでした。 子易さんはそのことに心を痛め、 私財を投じて古い醸造所を大々的に改修し、図書館に作り替えることになさいました。 そしてお 手持ちの大量の蔵書もそこに寄贈することにしました。 醸造所は古い建物でしたが、太い柱と梁 を使った頑丈な造りの木造建築でしたので、構造上の問題はありません。 改修にはそれなりの費 用が必要とされましたが、子易さんはほとんど単独でその費用をまかなわれました。 そこで図書 館員として働く人々の私もその一人なのですが給与も主に、子易さんが設立された財団 の資金でまかなわれています。 ご存じのように、さして高い給与ではありませんし、半ばボラン ティアのような性格のものではありますが、 それでも年間を通して少なくはない額の運営資金が 必要とされます。 新しい書籍も購入しなくてはなりませんし、光熱費だって馬鹿になりません。 町からの補助もいくらかあるものの、たいした額ではありません。
ですから、この図書館は実質的には子易さんの個人図書館のようなものなのですが、彼はその ように見られることを嫌い、「Z**町図書館』という看板を掲げ続けられました。建前として はこの図書館は、町民有志が参加する理事会によって運営されていることになっていますが、 そ それはあくまで形だけのものです。 理事会は年に二度招集されますが、 そこで報告された収支決算 は質問も討議もなく、そのまま機械的に承認されます。 すべてを決定するのは子易さんで、誰か がそれに異議を唱えるようなことはありません。なにしろ子易さんの援助と采配なしには成り立
となえる 2.
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