Created on September 17, 2023 by vansw
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・フラン
契機
皇太子
ころだいし
기발
の帽子をかぶることによって、子易さんが子易さんではなくなっていくような、なんだかそのま ま違う存在に変わっていくような・・・・・・ずいぶん奇抜な表現みたいですが、 わかっていただけます か?」
私はあえてその質問には答えなかった。 どうだろうというように、曖昧に少し首を傾げただけ だ。でも彼女の言わんとすることは、漠然とではあるが理解できるような気がした。
はっきり言って、子易さんのような顔かたちの人にはベレー帽はあまり似合わない。ときには、 子易さんがベレー帽をかぶっているのではなく、逆にベレー帽が子易さんを身につけているみた いに見えてしまうこともある。しかし子易さんはそんなことをちっとも気にしていないようだっ た。というかむしろ、彼はそうなることを歓迎しているみたいにも見えた自分というものが そっくり消えて、ベレー帽があとに残ることを望んでいるみたいにも。
「それに加えてやがて極めつけと申しますか、 スカートが登場しました。 ある日を境にそこに どのような契機があったのかは不明ですが)、子易さんはズボンではなく、スカートをはくよう になったのです。というか、スカートしかはかなくなったのです。これには人々はすっかり仰天 してしまいました。 もちろん男性がスカートをはいてはいけないという規則はどこにもありませ んし、 それはあくまで個人の自由です。 ご存じのように、スコットランドでは実際に男性がスカ ートをはいています。英国皇太子だって場合によってはおはきになります。 男性がスカートをは くことによって、誰かが傷つけられるわけでもありませんし、具体的に不便をこうむるわけでも ありません。それをやめさせるような根拠もありません。 しかしこの小さな町にあっては、子易 さんがまさに町の名士ともいうべき、六十の峠を越した地位もあり理性もある男性がス
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仰天ぎょうてん足つぼ
境
さかいな
こうむる
을 받다
あいまい