Created on August 07, 2023 by vansw
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威嚇するように部屋に響いた。
「肉体は魂の住む神殿だと言うものもいる」と門衛は言った。 「あるいはそうかもしれん。 しか
俺のようにこうして毎日、哀れな獣の死骸ばかり扱っていると、肉体なんぞ神殿どころか、た だの汚らしいあばら屋としか思えなくなる。 そしてそんな貧相な容れ物に詰め込まれた魂そのも のが、だんだん信用できなくなってくる。 そんなもの、死体と一緒になたね油をかけて、ぱっと 燃やしちまえばいいんじゃないかと思うときもある。 どうせ生きて苦しむ以外に能のない代物な んだなあ、俺のそんな考え方は間違っているだろうか?」
どう返答すればいいのか。 魂と肉体についての問いかけは、私をただ混乱させるだけだ。 とり わけこの街にあっては。
「いずれにせよ、影の言うことなんぞ真に受けない方が賢いぜ」と門衛は別の鉈を取り上げなが ら言った。「あんたに何を言ったかは知らんが、連中はなにしろ口が達者だからな。自分が助か りたい一心で、思いつく限りの理屈を並べたてる。 じゅうぶん気をつけた方がよかろう」
私は門衛小屋をあとにして西の丘を上り、住まいに引き返した。振り返ると、北の空は雪をは らんだ分厚い暗雲に覆われていた。 門衛の予言したように、おそらく夜半には雪が降り始めるこ とだろう。積もりゆく雪の中で、より多くの獣たちが夜のうちに息を引き取っていくだろう。そ して魂を失ってただの貧相な「あばら屋」 となり、私の影が掘った穴に放り込まれ、なたね油を かけられて焼かれるのだ。
107 第一部