Created on September 15, 2023 by vansw

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ると、妻は身を堅く縮め、筋肉を強ばらせた。まるでどこかの見知らぬ男に不作法に手を触れら れたみたいに。そのことは子易さんに深い悲しみをもたらした。 彼にとってまさに二重の悲しみ だった。彼はまず大切な子供を失い、 それに続いて大事な妻をも失いつつあるのだ。


妻はただ悲しみに沈み込んでいるのではなく、強いショックを受けたことで、精神に何らかの 異変を来しているのではないかと、彼は次第に不安に感じるようになった。 しかしそんな事態に どう対処していけばいいのか判断がつかなかった。 医師に相談するわけにもいかない。 妻の抱え ている問題を解決してくれるような医師が簡単に見つかるとは思えなかったからだ。 それはおそ らく彼女の精神のずっと深いところに生じている深刻な問題なのだ。 自分がその生々しい心の傷 口をなんとか癒やしていくしかない――人生の同伴者として。 それ以外に打つべき手はあるまい。 たとえどれほど長く時間がかかるにせよ、どれほど多大な努力を要するにせよ。


一ヶ月ほど堅く沈黙を守り続けたあと、ある日突然、憑き物が落ちたように彼女はしゃべり始 めた。 そして一度しゃべり始めると止まらなくなった。


「あのとき、 あの子の希望通り犬を飼ってやればよかったのよ」と彼女は抑揚を欠いた声で静か に語った。 「言われた通り犬を飼ってやれば、その代わりにあの自転車を買ってやることもなか った。私が犬の毛アレルギーだから、それで犬は飼えないと言った。だからプレゼントは自転車 になった。 誕生日祝いの、あの赤い小さな自転車に。 ねえ、あの子にはまだ自転車は早すぎたの よ。 そうでしょ? 自転車は小学校に入ってからにするべきだった。そしてそのおかげで、私の おかげで、あの子は命をなくしてしまった。 もし私が犬の毛アレルギーなんかじゃなかったら、


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