Created on September 15, 2023 by vansw

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数多くの文献に当たり、知恵を絞りに絞り、考えに考え、迷いに迷った末に、子易さんはよう やく堅い岩盤にも似た確かな結論に達した。


りん


男の子なら「森」にしよう。 女の子なら「林」にしよう。 そう、山間の自然溢れる小さな町で 生を受ける子供には、いかにもふさわしい名前ではないか。


子易森


子易林


彼はその男女二つの名前を白い紙に墨で大書し、自室の壁に貼った。そして朝と晩、その字を 見つめながら来たるべき子供の顔かたちを心に思い浮かべた。


すごく良い名前だと思う、と妻もその案に承認を与えた。 字の見た目の感じも好ましい。 男女 の双子が生まれたら素敵そうだけど、お腹の大きさからしてどうやらそれはちょっとないみたい ね。 それで、あなたはどちらがいいの? 男の子か、女の子か?


どちらでも同じくらいいいさ、と子易さんは言った。 とにかくこの世に無事に生まれて、その


MAI


ころも


名前を衣のように身に纏ってくれさえするなら、男女どちらだってかまわない。


それは子易さんの正直な気持ちだった。 男の子でも女の子でも、どちらでもいい。その子供が 自分の可能性を、可能性として引き継いでくれる存在であるなら。


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