Created on September 15, 2023 by vansw

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がたいことにというべきか) ほとんど口がきけない身体になっていた。母親は生まれつきおとな しい人で事を荒立てないことを人生の第一義に考えていたし、妹は子易さんの新しい奥さんと 年齢がほぼ同じで、話も合い気も合って、若い女性同士の親しい関係になっていた。だから子易 さんはまわりの誰にも苦言を呈されることもなく、その変則的にして慌ただしい結婚生活を五年 近く、まずは順調に円滑に送り続けた。


実際のところ子易さんは、世間から見れば通常とは言いがたいその生活様式を、彼なりに楽し んでもいた。たとえ週に一日か二日しか会えなかったとしても、彼女に会えるのは何より嬉しか ったし、彼女と二人で過ごしている時間はこの上ない幸福感に包まれていた。というか、彼女に 会える時間が限られていることによって、彼のその幸福感はより深く、広がりのあるものになっ ていたかもしれない。 そして彼女と会えない日々は、週末に彼女と会えるときのことを夢想しな がら、豊かでカラフルな期待感と共にやり過ごしていくことができた。


子易さんは東京に向かうとき、電車を使うこともあれば、車を運転することもあった。 実のと ころ彼は車の運転があまり得意ではなかったのだが、 これから彼女に (妻に会えるのだと思う と、ハンドルを握ることがまったく苦痛に感じられなかったし、その単独の長距離移動に疲労を 覚えることもなかった。一キローキロ、自分が彼女の住む街に近づいているのだと思うと、それ だけで胸が高鳴った。 まるで青春が戻ってきたみたいだ。 というか彼の場合、青春時代にだって これほど深く無条件に誰かを愛した経験はなかったのだ。


そのような変則的ではあるが、それなりに満ち足りた日々の連続が終わりを告げたのは、彼が


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