Created on September 15, 2023 by vansw

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ぜかいつ


まゆげ


って。


私と添田さんは図書館の運営に必要な事務的な事柄について、一階のカウンターで毎日のよう に話し合っていたが、考えてみれば、二人きりで向かい合って会話をするような機会はほとんど なかった。 添田さんがそんな機会を持つことを意識的に回避していたわけではないのだろうが、 積極的に求めていなかったことも確かだった。 それはあるいは(今にして思えばということだ が) 子易さんのことが二人の会話の中で話題にのぼることを避けるためであったかもしれない。 添田さんは淡い緑色の薄手のカーディガンに、装飾のほとんどない白いブラウス、青みがかっ たグレーのウールのスカートという格好だった。 靴は焦げ茶色のバックスキンのローヒール。 と くに高価な服装ではないのだろうが、かといって安物ではないし、古びてもくたびれてもいない。 どれも手入れが良く、なにより清潔そうで、 ブラウスは丁寧にアイロンをかけられ皺ひとつよう ていなかった。化粧は常にうっすらとした目立たないものだったが、二本の眉毛だけはまるで意 志の強さを示すかのように、くっきりと強く濃く引かれていた。 すべての見かけが、 彼女が経験 を積んだ有能な図書館司書であることを示唆していた。


私はデスクに向かって座り、彼女はデスクを間にはさんで向かい側に座った。 彼女の顔は心な しか、微かな緊張の色を浮かべているようだった。 淡い上品なピンクに塗られた唇は、横一文字 よこいちもんじ に結ばれていた。 必要なこと以外は何ひとつしゃべるまいと心を決めているかのように。


窓の外では細かい雨が音もなく降り続き、部屋は湿気を含んで冷ややかだった。 小さなガスス トーブがひとつあるだけだから、部屋全体はなかなか温まらない。雨は朝から同じ調子で休みな く降り続いていたが、空気の冷え込み具合からして、いつ雪に変わってもおかしくなさそうだっ


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焦げるこげる、印


飾そうしょく


매부진, 냉담한


しわがよっていない。


わ務