Created on September 15, 2023 by vansw
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子易さんに訊かなくてはならないことがいくつもあったし、私が子易さんに語らなくてはなら ないこともいくつもあった。 生者である私が知っておくべきこと、そして死者である子易さんに 知っておいてもらいたいこと。しかしその前に私は、いろんなものごとを頭の中でうまく整理し ておかなくてはならなかった。
子易さんが人の姿かたちをとって私の前に出現していられる時間は彼自身の説明によるな らそれほど長いものではない。 そして子易さんは、いつでも自分が望むときにその姿を現す ことができるわけではない。そのような限られた時間内に、私たちは数多くの重要な事柄を語り 合わなくてはならないのだ。 論理的に意味づけすることがおそらくは困難な、そしておおむね観 念的な領域に属するであろう多くの事柄を。 だから前もってある程度考えを整理し、話の段取り をつけておく必要がある。そうしなければ私は謎に満ちた薄闇の世界を、手がかりを求めつつい つまでも空しく彷徨っていることになりかねない。
翌日、午後一時過ぎに私は添田さんを二階の館長室に呼んだ。 少しばかり話があるからと言