Created on September 12, 2023 by vansw

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「しかしわたくしは用心に用心を重ね、 当座はあなたの言動を慎重に観察しておりました。 本当 のことを打ち明けていいものかどうか、 わたくしなりに逡巡しておったのです。 これは人の生き 死にを巡る、とても微妙な問題でありますから。おわかりいただけると思いますが、実は自分は 幽霊なのだなんて、そう簡単に言い出せるものではありません。然るべき時間の経過が必要であ りました。そのようにして夏が終わり、短い山あいの秋が通り過ぎ、 こうして厳しい冬がやって きて、この部屋のストーブに火を入れる季節となり、そしてようやく心の底から確信できたので す。 あなたはわたくしにとっての、真に正しい受け入れ先であるのだと」


私は口を閉ざしたまま、穏やかな表情を浮かべた子易さんの顔を見つめていた。その仮初めの 身体を伴った意識としての子易さんの顔を。


299 第二部