Created on September 12, 2023 by vansw

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筋道は、日常生活のレベルからは大いにかけ離れたものだったから。私は間を置いてから、思い 切って尋ねた。


「それでは、子易さん、 あなたの身体はもう存在していないのですか?」


子易さんはこっくりと肯いた。


「はい、わたくしの身体はもうこの世界に存在してはおりません。 今はとりあえず、 ああ、生き ていたときの子易の姿かたちをこのようにとってはいますが、これをこのまま長時間継続するこ とはかないません。 一定の時間が経過しますと、煙のごとく宙に消えて無と化してしまいます。 あくまで仮初めの一時的な姿かたちなのです。もちろん大して褒められた見かけではありません が、今のところこれ以外にわたくしのとれる姿かたちはありませんので」


「でも意識は継続する?」


「はい、意識はそのまましっかり継続しております。 肉体がなくとも意識はちゃんとあるのです。 それはわたくしにとって大きな謎です。 肉体がないのに、そして肉体がなければ必然的に脳もな いはずなのに、それでいてなおかつ意識が通常に機能しておるということが。はあ、こうして、 死んでもなおかつわからないことがあるというのは、なんだか奇妙なものです。いったん死んで


しまえば、生きているときとは違って、謎みたいなものとは無縁になってしまうだろうと、生き


ているときには漠然と考えておったものですが」


「脳と肉体の他に、それとは別に、魂という存在があるとは考えませんか?」と私は尋ねた。


子易さんは少し唇を曲げ、じっくり考え込んでいた。


「はい、そうですね、魂について考えたことはあります。 しかし考えれば考えるほど、 魂とは何


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