Created on September 12, 2023 by vansw
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うに片手を電灯の前にかざし、その影が壁に映らないことを示した。「わたくしの影はわたくし を離れて、どこかに行ってしまいました」
私はできるだけ慎重に言葉を選んで尋ねた。 「それはいつのことだったのですか? つまり、 あなたの影があなたの身体から離れていったのは?」
「それはわたくしが死んだときです。そのときにわたくしは影を失ってしまったのです。おそら くは永遠に」
「あなたが死んだとき?」
子さんは小さく堅く何度か青いた。「はい、今から一年と少し前のことになりますか。 それ 以来わたくしは影を持たぬ人間になりました」
「つまりあなたはもう死んでおられる?」
「はいもうこの世に生きてはおりません。 凍えた鉄釘に劣らず、命をそ
ておりま
凍える
こごえる
Czed,(点)
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スト
劣る
おとる