Created on September 12, 2023 by vansw

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セーターの上にダッフルコートを着て、首にマフラーを巻き、 毛糸の帽子をかぶった。ウール のライニングのついた雪用の靴を履いた。 手袋もつけた。 冷ややかな夜だが雪は降っていなかっ た。風もない。見上げても星が見えないところをみると、空はどうやら厚い雲に覆われているら しかった。いつ雪が降り出しても不思議はなさそうだ。川のせせらぎと、私の踏み出す靴音の他 には、どのような音も耳に届かなかった。 まるで音がみんな頭上の雲の中に吸い込まれていくみ たいに。 空気の冷たさのせいで頬が痛み、 私は毛糸の帽子を耳の下までおろした。


外から見る図書館は真っ暗だった。 古い門灯を別にして、周りのすべての明かりが消されてい る。まるで戦争中の灯火管制みたいに完全に。そんな闇に包まれた図書館を私が目にするのは初 めてだった。それは見慣れた昼間の図書館とは違う建物のように見えた。


玄関は施錠されていた。 手袋をとり、 コートのポケットから重い鍵束を出して、馴れない手つ きで引き戸を解錠した。(引き戸の解錠には二種類の鍵が必要とされる。 考えてみれば、私がその 鍵を実際に使用するのはそれが初めてだった。


建物の中に入ると背後の引き戸を閉め、念のために再び施錠した。 図書館の内部は緑色の非常 灯の明かりに仄かに照らされていた。私はその明かりを頼りに、何かにぶつからないように用心 深くラウンジを歩いて抜け、カウンターの前を通り(いつも添田さんが座っているところだ)、 閲覧室を通り抜けた。あちこち折れ曲がった廊下をたどり、半地下の部屋へと向かった。 非常灯 もついておらず、廊下はひどく暗かった。足を踏み出すごとに足元で床板が非難がましく小さな 悲鳴を上げた。 ポケットライトを持ってくるべきだったなと私は悔やんだ。


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슬라이딩도어


닫아문


引き戸


ひきど


2017


悔やむ よろじん


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