Created on September 12, 2023 by vansw

Tags: No tags

278


ちに積もった新しい雪を健気に支えていた。 時折山から吹き下ろす風が、 川向こうに広がる木立 の中で、より厳しい季節の到来を予告する鋭く痛切な音を立てた。そのような自然のありようは、 もどかしいほどの懐かしさと淡い悲しみで私の心を満たした。


降る雪はおおむね硬く乾いていた。引き締まった純白の雪片は、手のひらに受けても長いあい そのままの形を保っていた。 北方から多くの高い山々を越えてやってくるあいだに、雪雲は湿 気を奪い取られてしまうようだ。 降る雪は硬く乾いており、積もったまま長く解け残った。 そん な雪は私に、クリスマス用のケーキにまぶされた白いパウダーを思い起こさせた (最後にクリス マス・ケーキを食べたのはいつのことだったろう?)。


分厚いコートと暖かい下着、毛糸の帽子とカシミアのマフラー、 厚い手袋が私の日々の必需品 となった。しかしいったん図書館に着いてしまえば、そこには旧式の薪ストーブが私を待ってい た。 部屋が暖まるまでにはしばらく時間がかかったが、いったん炎が勢いを定めてしまえば、 そ のあとには心地よい温かさがやってきた。 部屋が時間をかけて暖かくなるにつれて、私は身につ けた衣服をひとつ、またひとつ取り去っていった。 手袋をとり、 マフラーをはずし、 コートを脱 ぎ、最後には薄手のセーター姿になった。午後には長袖のシャツ一枚になることさえあった。


あの壁に囲まれた街では、少女が常に私のために、前もってストーブの火をおこしておいてく れた。私が夕刻、図書館の扉を開けたとき、部屋は既に心地よく温まっており、ストーブの上で は大きな薬罐が友好的な湯気を上げていた。 でもここでは誰もそんな用意はしてくれない。 自分 の手でそれを始めなくてはならない。 図書館のいちばん奥にある半地下の部屋は、朝の早い時刻 にはすっかり冷え切っている。


278