Created on September 11, 2023 by vansw
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放り出す
いつ
) 되돌아오다.
チャ
死
まいもどる
の社会的な責任を負っている。その責任を放り出して個人的な幻想の世界に没入しているわけに はいかない。しかしそれでも自分でも気がつかないうちに、私はいつしか高い壁に囲まれた街の 中に舞い戻っていた。単角獣たちが蹄の音を立てて街路を歩き、白く埃をかぶった古い夢が棚に 積み上げられ、川柳の細い枝が風に揺れ、針のない時計台が広場を見おろしている世界に。もち ろん移動するのは私の心だけだ。 あるいは意識だけだ。私の実際の肉体は常にこちらの世界に残 っている――おそらく。
かわやなぎ
昼前に私はその暖かい部屋を出て、カウンターの添田さんのところに行って、いくつかの必要 な事務上の打ち合わせをおこなった。
彼女は新しい執務室の居心地がどうかとか、ストーブは十分暖かいかとか、そんなことは一切 尋ねなかった。いつものように無表情にてきぱきと仕事上の情報を交換し、いくつかの案件に決 定を下しただけだ。 静寂が要求される図書館内であり、基本的に世間話というようなものは一切 交わされない。それは常日頃のことだが、それにしてもその日の添田さんには、私の執務室の移 転を話題にすることを意識的に避けているような気配があった。 彼女の声には普段はない微かな 緊張の響きが聞き取れた。 それがどうしてなのか、何を意味するのか私にはわからない。
子易さんが私の新しい部屋を訪れたのは、そこに移って三日目の午後二時前のことだった。 彼はいつものようにスカートをはいていた。 膝下までの長さのウールの巻きスカートだ。 色は 深いワインレッド。その下に黒いタイツ、首には淡いグレーのスカーフを巻いていた。 そしても
蹄帝(㎜)
ひづめ
발급
埃ほこり
269 第二部