Created on September 11, 2023 by vansw

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そのへんの不用品をとりあえずかき集めてきたという感じのものだ。 それらがその部屋に置かれ た家具のすべてだった。 装飾らしきものは皆無、壁は淡く黄ばんだ漆喰、天井から電球がひとつ 下がっている。電球には小さな乳白色のシェードがついていた。それが唯一の照明だった。


そこがもともといったいどのような目的に使用されていた部屋なのか、見当もつかない。しか しその真四角な部屋には何かしら謎めいた、含みのある空気が漂っているように感じられた。 そ の昔、誰かがここで何か大事な秘密を、誰かにこっそり小声で打ち明けたみたいな・・・・・・。


そして私は目にした。 部屋の片隅に黒々とした古風な薪ストーブがひとつ置かれているのを。 私は思わず息を呑んだ。 それから反射的に目を閉じ、呼吸を整えてからあらためて目を開き、 それが現実にそこに存在していることを確認した。 間違いない。 幻影なんかじゃない。 あの壁に 囲まれた街の図書館にあったのとそっくり同じ―あるいは同じにしか見えない―――ストーブだ った。ストーブからは黒い円筒形の煙突が出て、壁の中に入っていた。 私は言葉を失った状態で そこに立ちすくみ、長い間そのストーブをまっすぐ見つめていた。


「どうかなすったのですか?」と子易さんが怪訝そうな声で私に尋ねた。


私はもう一度深く呼吸をした。 そして言った。 「これは薪ストーブですね?」


「はい、ごらんになってのとおり、古典的な薪ストーブです。 その昔から、ずっとここにあった ものです。しかしこれが思いのほか役に立つのです」


私はそこに立ったまま、 やはりじっとそのストーブを眺め続けていた。


「実際に使えるのですね?」


「もちろんです。もちろん使用に供せますとも」と子易さんは目を光らせて断言した。 「事実、


261 第二部


めいた


・・・・・・・き