Created on September 11, 2023 by vansw
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軋む (4
上方
うえほう
とがある。廊下が複雑に折れ曲がり、薄暗く入り組んだところで、どこがどうなっていたかほと んど記憶に残っていない。でも子易さんは迷うこともなく足早に廊下を抜け、小さな戸口の前に 立った。
「ここです」と子易さんは言った。 「鍵を」
おもだ
私はずしりと重い鍵束を差し出した。 様々な形の十二本の鍵がついていたが、主立った数本を べつにすれば、どの鍵がどの扉のためのものなのか見当もつかない。 子易さんは鍵束を受け取る と瞬時に一本の鍵を選び、 それを扉の鍵穴に差し込んで回した。かちゃりという思いのほか大き な音とともに扉は解錠された。
「ここは半地下になっております。いささか暗いので階段に気をつけてください」
戸口の中は確かに暗かった。 階段は木でできていて、足を下ろすたびに、ぎいっという不穏な 音を立てて軋んだ。子易さんは私の前に立って一段一段慎重に歩を運んだ。 そして六段ばかり降 りたところで頭上に両手を伸ばし、そこにあるつまみらしきものを馴れた手つきで回した。 ぱち んと音がして、天井から下がった電灯の黄色い明かりがともった。
縦横四メートルほどの真四角の部屋だった。 床は板張りで、 敷物は敷かれていない。階段の向 かい側にある壁の上方に、明かり取りの横長の窓がついていた。おそらくその窓は、地上の地面 すれすれのところにつけられているのだろう。窓は長いあいだ磨かれたこともないらしく、ガラ スは灰色に曇り、外の景色はほとんど見えなかった。陽の光もぼんやりとしか差し込まない。 防 犯のための鉄の格子が外側にはまっていたが、それほど強固なものではないようだ。
部屋の中には小さな古い木製の机がひとつ、そして不揃いな椅子が二脚置かれていた。 どれも
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ほ
止
J
歩を運んだな、