Created on September 11, 2023 by vansw
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「そうです。 この図書館の中にあります」
子易さんは長年にわたって使い込まれてきたらしいタータンチェックのマフラーを首から外 し、念入りに小さく畳んでベレー帽の隣に置いた。
いんとんじょ
「ああ、そうなのです。 それは言うなれば、わたくしの冬場のささやかな隠遁所のようになって おりました。その部屋をごらんになりたいですか?」
「その『隠遁所』はこの部屋よりも暖かいのですね?」
子易さんは何度か青いた。「ええ、ええ、ここよりも格段に暖かいし、居心地もよろしいです。 ああ、館内の鍵一式は持っておられますね?」
「ええ、持っています」、私はデスクの抽斗から、館内の鍵一式を束ねたキーリングを取りだし、 子易さんに示した。 仕事の初日に添田さんから手渡されたものだ。
「ああ、実にけっこうです。 それを持ってわたくしについていらっしゃい」
子易さんはきびきびとした足取りで階段を降りた。 私は遅れないようにそのあとをついていっ た。人影のまばらな閲覧室を抜け、添田さんの座っている正面カウンターの前を通り過ぎ、 作業 室を通過しそこではパートタイムの女性が一人、真剣な顔つきで新刊書に登録ラベルを貼って いた)、奥の廊下を進んだ。 私たちが前を通り過ぎても、誰ひとり顔も上げなかった。まるで私 たちのことなどまったく目に入らないみたいに。 それはなんだか不思議な感じのするものだった。 まるで透明人間になってしまったような気がした。
作業室から奥は図書館として使用されていない領域だ。添田さんに一通り案内してもらったこ
에서
기분이나 느낌
특정 장소
居心地
いごこち
部
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259 第