Created on September 11, 2023 by vansw

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その街に関して、うまく思い出せなくなっていることが数多くあった。いくつかの事柄は鮮明 すぎるほど鮮明に記憶しているのに、ある種の事柄はどれだけ努力しても思い出せない。 雪靴も、 そんな思い出せないもののひとつだ。そのように記憶がまだらになっていることが、私を惑わせ 混乱させた。記憶は時間の経過とともに失われたのか、それとも最初から存在しなかったのか? 私の記憶していることのどこまでが真実で、どこからが虚構なのか? どこまでが実際にあった ことで、どこからが作り物なのか?


それから間もないある日、子易さんが図書館に姿を見せた。 午前十一時を少し回ったころだ。 その日も空は灰色に曇って小雪が舞っていた。館長室にはガスストーブがひとつ置かれていたが、 その火力は部屋を十分暖めてくれるほどのものではなかった。だから私はウールの上着を着て、 首にスカーフを巻いたままの格好で帳簿を点検していた。しかしその部屋のうすら寒さに対して、 私はとくに不満を感じたことはなかった。 階下の閲覧室は心地よく暖房が効いていたし、席が混 んでいなければ(だいたい混んではいなかった)そこでしばし身体を暖めることもできた。


そしてまた私は、どちらかといえば適度なそこそこ我慢できる程度の寒さを愛してい たかもしれない。それは私が、あの壁に囲まれた街で日常的に味わってきたものだったから。私 を取り囲む寒冷な空気は私の心に、その街での暮らしぶりをもう一度蘇らせてくれた。



子さんはこの日はドアをノックして、館長室に入ってきた。 そしてまずベレー帽を脱ぎ、い つものようにきれいに形を整えてから、デスクの片隅の所定の場所に置いた。 それから私ににこ


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부활이다.


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おみがえる