Created on September 11, 2023 by vansw
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最初の雪が降った日の夕方 (十一月もそろそろ終わりに近づいていた)、図書館での仕事を終 えたあと、町に出て雪道用の靴を買い求めた。まだちらちらと舞う程度の雪だったが、もっと本 格的に降るようになったら、東京から持ってきた都会風のやわな靴では、雪の日の歩行はおぼつ かない。
降り始めた雪は私にいやでも、あの壁に囲まれた街での生活を思い起こさせた。 冬になるとあ の街でもよく雪が降った。そしてその雪の中で多くの単角獣たちが死んでいった。
でもあの街で、私はどんな靴を履いていただろう?
私は街から靴を与えられ(すべての衣服と用具を街から支給されていた)、それを履いて冬場 の道を日々歩いていた。それほど深く雪が積もったことはなかったが、路面が固く凍りついてつ るつると滑ることはあった。でもそんな道を歩くのにとくに不自由を感じたことはない。おそら くは雪道を歩くのに適した靴が与えられていたのだろうが、それがどんな形のどんな色の靴だっ たのか、まったく思い出せなかった。 毎日履いて歩いていたものなのに、どうしてその記憶がな いのだろう?
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