Created on September 11, 2023 by vansw

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が私の部屋まで聞こえてくることもあった。


サンクチュアリ


その「休憩所」はいわば彼女たちの聖域のようになっており、よほど大事な用件がない限 り、私がその廊下の奥の部屋を訪れることはない。そこでどのような種類の会話が交わされてい るのか、もちろん私には知りようもない。おそらくこの私も、彼女たちの噂話の話題のささやか な(願わくば罪のない) 一部を担っているのだろうが。


図書館における私の日々は、そのようにこともなく流れていった。 日々の業務の実際的な部分 は、添田さんが中心になった女性チームが問題なく片付けてくれたし、私が館長として果たさな くてはならない職務は、たいして骨の折れるものではなかった。 書籍の出入りを管理し、日々の 金銭の収支を確認し、 いくつかの簡単な決裁を行うくらいのものだ。


まれ


子易さんが最初に言ったように、図書館は表向きはたしかに 「Z**町図書館」 と名乗ってい たものの、町は図書館の運営にはまったく関与してはいなかった。だから私が町役場と連絡をと らなくてはならないような用件は、ごく稀にしか起こらなかった。 そしてそんなときに私が町役 場の「文教課」に電話をかけて何か質問をしても、担当者の反応は冷淡とは言えないまでも、常 にかなり気乗り薄なものだった。何かを相談しても、「なんでも、そちらの好きにして下さい」 とでも言わんばかりの応対だった。町役場はこの図書館とできるだけ関わりを持たないよう努め ているのではないか、という印象を持ったほどだ。 こちらに対してとくに悪意を持っているとい うのではなさそうだったが、少なくともより友好的な関係を築こうというような姿勢は感じ取れ なかった。それがどうしてなのか、私には理解できなかったけれど。


253 第二部