Created on September 10, 2023 by vansw

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ったからだ。


「この図書館では、そういう記録にコンピュータみたいなものを使用しないことになっているん です」と添田さんは私に説明した。 「すべて手書きでおこなっています」


「つまり、ここではコンピュータをまったく使っていないということですか?」


「ええ、使っていません」と彼女は当たり前のことのように言った。


「しかし手書きだ


間が


管理が面倒じゃありませんか。 バーコードを使えば作業は 一瞬で終わるし、書類を保管する場所も必要ないし、情報も整理しやすいのに」


添田さんは右手の指先で眼鏡の位置を正した。 そして言った。 「ここは小さな図書館ですし、 それほど大量の書物が閲覧されたり、貸し出されたりしているわけでもありません。 昔ながらの やり方でじゅうぶん仕事はこなせます。 何をするにも大した手間はかかりません」


「じゃあ、これからもずっと今のままでいいと?」


「ええ」と添田さんは言った。「これは前から決まっていることで、私たちはずっとこれでやっ ています。 その方が人間的でいいじゃありませんか。そのことで利用者から苦情が出たこともあ りません。機械を使わなければ、技術的なトラブルも少ないし、余計な費用もかかりませんし」


図書館にはWi-Fi設備などは設置されていなかったから、私が自分のコンピュータにアク セスできるのは自宅に限られていた。とはいえ私には定期的にメールをやりとりするような相手 もいなかったし、SNSみたいなものとはもともと関わりを持たなかったから、さして不便を感 じることはなかった。また図書館に行けば、 閲覧室で新聞を何紙も読むことができたから、イン


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