Created on September 10, 2023 by vansw
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「しかしこの図書館を運営し維持するには、相応の費用がかかっているはずです。 小規模な町の 図書館とはいえ、光熱費や人件費がかかるし、毎月書籍を購入する費用もかかります。もし理事 会が何の機能も果たしていないのだとしたら、いったい誰がそういったコストを負担し、管理し ているのでしょう?」
子易さんは腕組みをし、少し困った顔をして首を捻った。そして言った。
「そういうことは、ここで日々仕事をしておられれば、おいおいおわかりになってくるでしょう ちょうど夜が明けて、 やがて窓から日が差してくるみたいに。でも今のところ、 そんなことはあ まり気にせんで、とりあえずはここでの仕事の手順を覚えて下さい。 そしてこの小さな町に、心 と身体を馴染ませて下さい。今のところ、ああ、心配することは何ひとつありません。 大丈夫で す」
そして手を伸ばして、私の肩をとんとんと軽く叩いた。 可愛がっている犬を力づけるみたいに。 ちょうど夜が明けて、やがて窓から日が差しているみたいに、と私は頭の中で反復した。なか なか素敵な表現だ。
新任の図書館長として最初に手がけた仕事のひとつは、この町の図書館利用者がどのような本 を閲覧し、借り出して読んでいるかを把握することだった。そうすることで、 これから購入すべ き図書の傾向もわかってくるし、図書館を運営する指針みたいなものも見えてくるはずだ。しか そのためには、手書きの閲覧記録や、貸し出しカードの記録をひとつひとつ手仕事で辿らなく てはならなかった。図書館は閲覧や貸し出しの作業に、コンピュータをいっさい使用していなか
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