Created on September 10, 2023 by vansw

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「形だけの理事会」と私は言った。


「はあ、そうです」 となおも笑みを浮かべながら子易さんは言った。 「五人ばかり理事がおりま すが、そのうちの誰ひとりとして、この図書館のことなど気にしてはおりません。 制度上の必要 があって、ただ名前を借り受けているだけです。だから、ええ、あなたが挨拶に出向く必要など ないのです」


私にはわけがわからなかった。 名目だけの理事会によって運営される図書館。


「誰かに相談しなくてはならないような事案が持ち上がったとき、私はいったい誰に相談すれば いいのでしょうか?」


「わたくしがおります。 わからないことがあったらなんでも、わたくしに尋ねてください。 お答 「えいたします」


しかしそう言われても、私は彼の家の住所も電話番号も、メールアドレスも何ひとつ知らなか った。どうやって連絡すればいいのだろう?


「わたくしはおおよそ三日に一度くらいはここに顔を出すようにいたします。 事情がありまして、 毎日とはいかんのですが、 それくらいは来られるでしょう。 何かありましたらそのときに尋ねて ください」と子易さんは私の考えを読んだように言った。


「それから、ああ、添田さんがおります。 彼女が何かとあなたを助けてくれるでしょう。 あの人 はたいていのことを心得ております。 ですから、あなたが心配するようなことは、ええ、何もあ りません」


私はかねてから気になっていたことを尋ねてみた。


243 第二部