Created on September 10, 2023 by vansw

Tags: No tags

239


よそ者 モトマト


もの (2)


らなんとなく、彼女とはそのうちに親しくなれるのではないかという気がしていた。たぶんこの


小さな町における「よそ者」同士として。


添田さんは言葉少なにではあるが、新来の「よそ者」である私を新しい上役として、 最初から 抵抗なく、ごく当たり前に迎え入れてくれた。 それは私にとっては何よりありがたいことだった。 職場におけるぎくしゃくした人間関係ほど人を消耗させるものはないから。


添田さんは自らについては多くを語りたがらない人だった。 それでも他人に対する健全な好奇 心はじゅうぶん持ち合わせているらしく、少し時間が経って私の存在に慣れてくると、私の過去 について何かと知りたがった。他の女性たちと同じく、なぜ私が四十代半ばまで独身を保ってい るのか、それが最も興味を抱くことのようだった。もし「適当な相手がみつからなかった」とい うのがその理由であれば、 誰か 「適当な相手」を探してきて紹介しようというつもりもあったか もしれない。私は年季の入った独身者として、これまでそういう目に何度となくあってきた。 「結婚しなかったのは、心に思う相手がいたからです」と私は簡潔に答えた。 同じ質問には常に 同じ答えを返すようにしている。


「でもその人とは一緒になれなかったわけですね。 何か事情があって?」


私は黙って曖昧に背いた。


「相手の人は誰かと結婚していたとか?」


「それはわからない」と私は言った。「もう長いあいだ会っていないし、彼女が今どこで何をし ているか、それも知りようがないし」


239 第二部