Created on September 10, 2023 by vansw
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しかしきっとみんな私と同じように、何度もその姿を目にしているうちに見慣れてしまって、な んとも思わなくなっているのだろう。 それに子易さんはなんといってもこの町の名士なのだ。 指 さしてからかうわけにもいかない。
でもあるとき、私は何かの話のついでに、思い切って子易さんに尋ねてみた。 いつからそのよ うに日常的にスカートをは りになったのですかと。 そして、 そう、そのときに彼は言ったの だ。 明るくにこやかに、あくまで当然のことのように。
「ひとつには、こうしてスカートをはいておりますと、 ああ、なんだか自分が美しい詩の数行に なったような気がするからです」
なぜか私は彼のその説明をとくに驚きもせず、 不思議にも思わず、そのとおりごく自然に受け 入れた。日常的にスカートをはくことは、きっと彼の心持ちに何よりすんなり馴染んだおこない なのだろう。そしてそれがどのようなことであれ、その理由がいかなるものであれ、自分が美し い詩の数行になったみたいに感じられるというのは、なんといっても素晴らしいことではないか。 もちろん(というか私は)、だからといってスカートをはいてみようという気持ちにはなれない けれど、それはあくまで個人的な好みの問題に過ぎない。
私は子易さんに好意を持っていたし、彼もおそらく私に好意 (らしきもの) を持っていたと思 う。しかし私と子易さんとの交際はあくまで公的な場に限定されたものだった。 子易さんは前触
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