Created on September 10, 2023 by vansw
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うほとんど聞こえなくなっていたが、 それでも残暑は厳しく、日差しは首筋を遠慮なくじりじり 焼いた。
そえだ
私はまわりにいる人々に助けてもらいながら、図書館長としての仕事を少しずつ覚えていった。 図書館長といっても、下には添田さんという司書の女性が一人いて私が初めてこの図書館を訪 れたときカウンターに座っていた、メタルフレームの眼鏡をかけて髪を後ろで束ねた女性だ)、 あとはパートの女性が数人いるだけだから、いろんな日々の雑務を自分でこなさなくてはならな
い。
ときおり子易氏が館長室に顔を見せ、デスクの向かい側に座り、図書館長としての職務のこな し方を細かく具体的に教示してくれた。 図書館に入れる本の選択、 管理の方法、日々の帳簿の整 理 (正式な帳簿付けは月に一度税理士が来てやってくれる)、人事の管理、来館者への応対・・・・・・ 覚えなくてはならないことはいくつもあったが、規模の小さな施設だから、 どれもそれほど面倒 な種類のものではない。 私は言われたことをひとつひとつ頭に入れ、無難にこなせるようになっ ていった。 子易さんはずいぶん親切な人柄で(おそらく生まれつきそういう性格なのだろう)、 この図書館をこよなく愛しているようだった。常に予告もなくふらりと部屋に姿を見せ、よくわ からないうちにこっそりと部屋から去っていった。まるで用心深い森の小動物のように。
部
第
図書館で働いている女性たちとも、少しずつではあるが親しくなっていった。 東京から突然、 舞い降りるようにやって来たまったくのよそ者である私に対して、彼女たちは最初のうちそれな りに警戒感を抱いているようだったが(当然そうなるだろう)、 共に時間を過ごし、日常的な会 話を交わしているうちに次第に打ち解けてきた。彼女たちはほぼ全員が三十代から四十代の地元
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たばねる 男