Created on September 10, 2023 by vansw
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そのときに比べれば、私は軽トラックの荷台いっぱいの「持ち物」をまだ過去から引き継いで いた。しかしずいぶん身軽になったという解放感には、間違いなく相通じるところがあった。
駅前に店舗を構える不動産業者が私をその貸家に案内してくれた。小松というひどく愛想のい い小柄な中年男だった。 彼が図書館から委託を受けて、私の住まいに関する一切を取り仕切って いるということだった。
平屋建ての小ぶりな一軒家で、 川の近くにあった。 焦げ茶色の板塀に囲まれ、小さな庭がつい ていた。庭には古い柿の木が一本生えていた。今はもう使われていない、半ば埋められた井戸も あった。井戸の横には山吹が茂っており、その奥の小さな灯籠にはうっすらと緑色の苔が生えて いた。 雑草はきれいに抜かれ、ツツジの茂みは端整に刈り揃えられていた。 半年ばかり人が住ん でおらず庭が荒れていたので、数日前に庭師を入れたということだった。
「あるいは余計なことだったかもしれませんが、 このあたりでは庭というのは、それはそれで、 大事な意味を持つものですから」と小松さんが言った。 「もちろん」と私は適当に同意した。
「それから、あの柿の木はたくさんの立派な実をつけますが、とても渋くて食べることはできま
茂しせん。残念なことですが。しかしそのぶん、そのへんの子供が勝手に庭に入ってきて、果実をと
っていくというようなこともありません」
「ということは」と私は言った。「人はみんな知っているわけですね。 この庭の柿は見てくれは 良くても、渋くて食べられないことを」
フラス
荒れる
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しげる 早
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継ぐ
つ
柿
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