Created on September 10, 2023 by vansw

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期間は、やはりある程度必要とされるのではないかと愚考いたします。その期間、必要に応じて あくまで個人的にあなたのお手伝いをできればと思っているだけです。もちろんあなたの方に不 都合がなければ、ということでありますが」


私は首を振った。「いいえ、不都合なんてことはありません。というか、それは私にとってず いぶんありがたいことです。 ただお話をうかがっていると、なんだか既に後継者は私に決定して いるというように聞こえてしまうのですが」


「ああ、それはもう」と子易館長は驚いたような表情を顔に浮かべてそんなこともわかって いなかったのかというように 「わたくしどもとしては最初からずっとそのつもりで 言った。 おりましたよ。実はこれまでお勤めになっていた会社の同僚の方からも、内々にお話をうかがい ましたが、ああ、あなたの評判は間違いないものでした。 仕事においては有能であり、人柄も森 の樹木のように誠実で信頼できると」


森の樹木のように? 私は自分の耳を疑った。 そんな表現を口にしそうなかつての同僚を、私 は一人として思いつけなかったからだ。 森の樹木のように?


子易館長は続けた。 「ですからこそ、わざわざこのような遠方までご足労をいただいたのです。 正式決定をする前に、 やはり一度お目にかかって、お話をしておいた方がよかろうと。しかしわ たくしどもの気持ちは前もって決まっておりました。 この職は是非ともあなたさまにお願いしよ うと」


「ありがとうございます」と私はどこかに重心を置き忘れたような声で言った。 そして深くゆっ くり息をついた。それはおそらく安堵の息だった。


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