Created on September 10, 2023 by vansw
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BCBA
仰ぐ
懸命に辿るように、そこに凍りついた。それが再び動き出すまでにしばらく時間がかかった。 「どうかなすったのですか?」、 子易館長が心配そうに私を見ながら尋ねた。
「いいえ、何でもありません。 大丈夫です」 と私は言った。そして何度か軽く咳払いをした。 喉 に何かが詰まったふりをして。それから何ごともなかったように、前の会社でおこなっていた仕 事の説明を続けた。
けんさん
「なるほど、 あなたは長年にわたって書籍について勉強をなさり、研鑽を積んでこられた。 社会 常識もあり、組織内での仕事のやり方も心得ておられるようだ」、私が話し終えると館長はそう 言った。
私はちらりとベレー帽に目をやり、また相手の顔を見た。
子易館長はそのあとこの図書館の運営に関して、館長がしなくてはならない仕事の説明をした。 それほど長い説明ではない。 仕事の量は多くなかったからだ。 給与の額も提示された。 大した額 ではないが、覚悟していたほど少なくもなかった。もしこの町で一人つつましく生活するのであ れば、十分事足りる額だ。
「ああ、何か質問はございますでしょうか?」
質問はもちろんいくつかあった。「もし、あなたの職を継ぐことになるとすればですが、私は あいろんな決定に関して、どなたの指示を仰げばいいのでしょう?」 「つまりボスは誰になるか、ということですね」
私は肯いた。「そういうことです」
あおぐ
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