Created on September 10, 2023 by vansw

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頑丈がんじょう


ひたい ob



初夏の陽光が心地よく差し込んでいた。


玄関を入ってすぐの土間がラウンジのようになっていて、ソファが置かれ、壁のラックには新 聞や雑誌が整然と並んでいた。真ん中のテーブルに置かれた大きな陶製の花瓶には、枝付きの白 い花がたっぷり挿されていた。 三人の利用客が椅子に腰を下ろし、それぞれに黙々と雑誌を読ん でいた。 六十代から七十代の男性、おそらく暇を持て余している退職者だろう。そのような人々 が昼下がりの時間を過ごすには、うってつけの場所であるようだ。


その奥にはカウンターがあり、眼鏡をかけた細身の女性が座っていた。いくぶん骨張った顔立 ちで、鼻が小さく薄い。 髪を後ろで束ね、簡素なデザインの白いブラウスを着ている。 暖炉の前 編み物をしているのが似合いそうだ。 しかし今はカウンターの奥に座り、分厚い帳簿にボール ペンで何か記載している。 その背後の壁には伸びをしている猫を描いたレオナール・フジタの小 品が、頑丈そうな額に入って飾られていた。たぶん複製だろう。 複製でなければ間違いなく相当 な値がついているはずだし、 そんな貴重なものがここに何気なく飾られているとは思えない。し かし複製画にしては額がいささか立派すぎる。


腕時計の針が三時少し前を指していることを確かめてから、カウンターに行って名前を名乗り、 三時からの面接にうかがったのだがと言った。彼女は私の名前を聞き返し、私はもう一度繰り返 した。彼女は猫を思わせる目をしていた。変化しやすく奥が見通せない目だ。


彼女は何かを確かめるように私の顔をしげしげと眺め、しばらく黙り込んでいた。言葉を一時 的に失ったかのように。 それから一息ついて、どことなく諦めを感じさせる声で言った。 「お約 束をなさったのですね?」


長祉・号祉


がくロフト


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ふぜい