Created on September 10, 2023 by vansw

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みにこなしてきた。四十代半ばを迎えて独身であるのは珍しかったが(社内にはそういう例は私 の他になかった)、それ以外にまわりの同僚たちと異なったところはとくになかったはずだ。 で も私の中にはあるいは、 人に心を許さない部分があったのかもしれない。 地面に一本線を引いて、 ここから内側には足を踏み入れてもらいたくない、といったように。 そして長く行動を共にして


いれば、人はそういう気配を微妙に感じ取るものだ。


「つかみどころが見えない」と言われれば、確かにそうかもしれない。 結局のところ、私には自 分自身のことさえろくすっぽ把握できていなかったのだから。 私は窓の外を過ぎていく山間の風 景を眺めながらそう思った。 あるいは私という人間に関して、真に戸惑うべきは私自身なのかも しれない。


こうさ


目を閉じて何度か深く呼吸し、頭の中を落ち着かせようと試みる。 少し後でもう一度目を開け、 もう一度窓の外の風景に目をやる。 列車は曲がりくねった美しい谷川を交叉して渡り、トンネル に入り、トンネルを出る。 トンネルに入り、トンネルを出る。ここまで深く山の中に入れば、冬 はきっとずいぶん冷え込むことだろう。雪もかなり降るはずだ。雪について考えると、私はあの 気の毒な獣たちのことを思い浮かべないわけにはいかなかった。降り積もる白い雪の中で、次々 に息を引き取っていく単角獣たち。彼らはそのやつれた身体を地面に横たえ、静かに目を閉じて 死を待ち続けている。


**町の駅前には小さな広場があり、タクシー乗り場とバス乗り場があった。 タクシー乗り


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