Created on September 10, 2023 by vansw
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とであり、また同時に興味深い新たな展開のようでもあった。
昼時ということもあり、列車の乗客は少なかった。駅に止まるたびに数人の乗客が降車し、か わりに数人が乗り込んだ。まったく人の乗降がない小さな駅もいくつかあった。駅員の姿さえ見 えない駅もあった。 食欲はなかったので昼食はとらず、どこまでも続く山を眺めながらときどき 短くうたた寝をした。 そして目が覚めると、いつも少し不安な気持ちになった。自分がここでい ったい何をしているのか、 これから何をしようとしているのか、そんなことをあらためて考え始 めると、体内にある判断軸が微妙に揺らいだ。
私は本当に正しい場所に向かっているのだろうか? ただ見当違いな方向に、見当違いなやり 方で進んでいるだけではないのか? そう思うと、身体のあちこちの筋肉が強ばった。だからで きるだけ何も考えないように努めた。頭を空っぽにしておかなくてはならない。 そして自分の中 にある直感を 論理では説明のつかない方向感覚を 信用して進んでいくしかないのだ。 でもきっと何か大事な理由があるんでしょうねと大木は私に言った。私自身もそう信じてやっ ていくしかないのかもしれない。そこにはきっと何か大事な理由があるのだろう、と。
大木はまた私のことを「予測がつかない」「つかみどころが見えない」と評した。 それを聞い てそのとき私は少し驚きもした。 自分がそんな風にまわりの人に見られていたなんて、思いも寄 らなかったからだ。 私は会社ではとくに目立った行動もとらなかったし、ごく当たり前の人間と して普通に振る舞ってきたつもりだった。 社交的とは言えないまでも、社内でのつきあいは人並
209 第二部