Created on September 10, 2023 by vansw

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東京からZ**町までの旅は予想した以上に時間がかかった。 水曜日の朝の九時に東京を出て、 現地の駅に到着したのは午後二時近くだ。 面接の予定時刻は午後三時だ。


東北新幹線で郡山まで行き、そこから在来線で会津若松まで行って、ローカル線に乗り換える。 しばらくして列車は山中に入り、 それからあとは地形に沿って細かく向きを変えながら、 山と山 との間を縫うように抜けていく。 トンネルも次から次へと現れる。あるものは長くあるものは短 い。いったいどこまでこうして山が続くのだろうと感心してしまうほどだ。季節は初夏で、まわ りの山々はすっかり鮮やかな緑に包まれていた。どこかから風が入ってくるらしく、吸い込む空 気には新緑の匂いがした。空には多くのとんびが輪を描き、その鋭い眼で世界を怠りなく見渡し ていた。


内陸部に行くというのがそもそもの希望だったから、山が多いのは当然と言えば当然なのだが、 考えてみれば私はこれまで一度も山間の土地に住んだことはなかった。生まれ育ったのは海のそ ばだし、東京に来てからはずっと関東平野の真っ平らな土地に暮らしていた。だからこれほど多 くの山に囲まれた土地に定住する(かもしれない)というのは、私にとって不思議な気のするこ


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