Created on September 10, 2023 by vansw
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地柄でもないようですし」と大木は言った。
二日後に大木から連絡があり、月曜日以外の都合の良い日の、午後三時に現地の図書館を訪ね てもらいたい、ということだった。
「都合の良い日?」と私は言った。
「お好きな日でよいそう
いつでも会えるようにしておくからと」
なんとなく奇妙な話だったが、私の方にはとくに異議を申し立てる理由はなかった。
「そこで面接があるのかな?」
「おそらく」と大木は言った。「先輩のようなしっかりした経歴を持つ、働き盛りの人が、 わざ わざ東京から応募してきたことに、先方は少なからず驚いていたようですが、そのへんは適当に 説明しておきました。 都会での忙しい暮らしに疲れたようだとか、それらしいことを」
「いろいろ親切にしてくれてありがとう。 感謝するよ」と私は礼を言った。
彼は少し間を置いてから言った。
「これは余計なことかもしれませんが、僕にとって先輩は昔からなにかと不思議なところのある 人でした。 予測がつかないというか、つかみどころが見えないというか....今回のこともそうで す。なぜそんなに急いで今の職場を離れ、名前も聞いたことのない田舎町の図書館で、条件のよ くない仕事を引き受けなくちゃならないのか、わけはよくわかりません。でもきっと何か大事な 理由があるんでしょうね。 いつか気が向いたら、そのへんのことを教えてもらえると嬉しいで す」、そして小さく咳払いをした。 「ともあれ、新しい場所での暮らしが実りあるものになること
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