Created on September 10, 2023 by vansw
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たんです」
「それはどうして?」
「そこは建前はいちおう町営の図書館となっていますが、実質的には町は運営に関与していませ
まぬが
ん。ですから地方公務員の面倒な縛りみたいなものを免れることができそうです」
「町営の図書館なのに、町は運営に関わっていない?」
「ええ、そういうことです」
「じゃあ、誰が運営しているんだろう?」
「この町には農業以外にこれという産業もなく、また名の知れた観光資源みたいなものも見当た りません。近くに小さな温泉があるくらいです。 そしてそういう自治体の例に漏れず、慢性的に 予算不足に悩んでいます。 町営の図書館を維持するのも一苦労で、建物も老朽化して消防法なん かにも引っかかるようになり、一時は閉館することも考えたようです。 ただ町で昔から続いてい た造り酒屋の経営者が中心になり、『図書館は大事な文化施設であって、それをなくすのは町の ためにならない」ということで、 十年ほど前にファンドを起ち上げ、 図書館運営に必要な資金を 提供することになったようです。 図書館自体も新しい場所に移転し、それを機に町は運営権を実 質的にそちらに委譲したということです。 それ以上の細かい事情は調べられませんでした。 よか ったら現地で直接尋ねてみてください」
そうしてみると私は言った。
「今風にいえば、民間移管された図書館というわけです。 先輩みたいな人にはそういうところの 方が働きやすいんじゃないでしょうか。 実際に見たわけじゃないけど、それほどせかせかした土
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