Created on September 09, 2023 by vansw

Tags: No tags

204


大木は現在人材を募集している、四つの地方都市の図書館を見つけて、リストアップしてきて くれた。場所は大分県と島根県と福島県と宮城県、三つは市営、ひとつは町営の図書館だ。 条件 はどれもおおよそ似通ったものだったが、私は福島県にある町営の図書館になぜか心を惹かれた。 その町の名前を耳にしたことはなかったが、 大木の説明によると、そのZ**町は会津からさほ ど遠くないところにあるということだった。会津若松駅からローカル線に乗り換えて、一時間ほ どでそこに着く。人口は一万五千人ほど。日本の多くの地方都市がそうであるように、この二十 年ばかり人口は徐々に減り続けている。若い人々の多くはより良い教育環境や、条件の良い職を 求めて都会に出て行く。 そしてまたZ**町は、候補に挙げられた他のどの市よりも遠く海から 離れたところにあり、規模もいちばん小さかった。 山に囲まれた小さな盆地に位置し、町の周縁 に沿って川が流れている。


「この福島の図書館に興味があるな」と私はそのリストを一通り眺め、細部を検討してから言っ た。


「じゃあ、直接現地に出向いて、 面接を受けますか?」と大木は尋ねた。「もしよければ、僕の 方で面接の予約を入れておきます。 できるだけ早いほうがいいでしょうね。 館長の募集なので他 の人に決まってしまわないうちに。 その前にいちおう履歴書を用意していただけますか」


もう用意してある、と私は言った。封筒に入った履歴書を大木に差し出すと、大木はそれを革 靴に入れた。そして言った。


「実を言いますと僕も、先輩にはその福島県の町営図書館が向いているんじゃないかと考えてい


204