Created on September 09, 2023 by vansw
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「喉の具合がちょっとおかしくて」、私はそう言って軽く咳払いをし、声の調子を整えた。 「図書館の仕事の件なんですが」と大木は切り出した。 「なかなか簡単ではありませんでした。 公立の図書館の職員となると、つまりパブリックな役職に就くとなると、多くの場合それなりの 資格を持っているか、図書館勤務の経験者であることが求められます。 ご存じのように、 中途採 用で公務員になるというのは面倒なものです。ただ先輩の場合は長年、 書籍関係の仕事に就いて きたので、専門的な知識は十分あるわけだし、実務に関してはまず問題はないはずです。 そして そういう人材を求めている図書館はいくつかあります。 正式な図書館員になるのはむずかしいけ れど、もう少し融通のきくポジションであれば、それなりに歓迎されるということです」
「つまり正規雇用でなければ可能性はあると?」
「ええ、簡単に言えばそういうことです。 正直なところ給与はよくありませんし、社会的な保障 もおおむねついていません。 勤務しているうちに能力を評価され、そのまま正規採用される可能 性はありますが」
私はそれについて少し考えてみた。 それから言った。 「正規雇用じゃなくてもかまわない。 給 料が安くてもいい。ただ図書館で職に就きたいんだ。だから適当なポジションがあれば紹介して もらえないだろうか?」
「わかりました。 先輩がそれでいいのであれば、当たってみます。 具体的な候補はいくつかあり ます。 数日中に、場所や条件なんかをリストにしてお見せします。 電話じゃなくて、どこかでお
目にかかって直接お話しした方がいいでしょう」
我々は三日後に会うことにして、時刻と場所を決めた。
203 第二部