Created on September 09, 2023 by vansw
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とばり
장막..
の意識に新鮮な空気を吹き込んでくれた。ようやくベッドから起き上がり、徐々にではあるけれ ど身体を動かし始めた。 部屋の掃除をし、シーツを洗濯し、買い物をして料理を作った。 すぐに も引っ越しができるように、洋服や本の整理をし、不要なものをまとめて区の施設に寄付した。 もともとそれほど多くを所有していたわけではなかったが、そんな細かい手仕事を続けていれば、 少なくとも昼の間は余分なことは考えずに済んだ。
しかし日が落ちて夜の帳が降り、横になって目を閉じると、私の心は再びあの高い壁に囲まれ た街に戻っていった。それを止めることはできなかった(とくに止めようと努力したわけではな いが)。そこではまだ細かい秋の雨が休みなく降り続き、 彼女は黄色い大ぶりなレインコートを 着て、それは歩くたびに私の隣でかさこそと音を立てた。その街では私の影は口をきくことがで きた。まるで私自身の分身のように。 そこで飲んだ濃い薬草茶の味や、口にした林檎菓子の味は、 私の中にまだ鮮やかに残っていた。
大木から電話がかかってきたのは、一週間後の夜の八時過ぎだった。私は椅子に座って本を読 んでいたのだが、突然鳴り響く電話の音に飛び上がった。 あたりはいやに静まりかえっていたし、 電話のベルが鳴るなんて実に久方ぶりのことだったから。
私は受話器を取り、「もしもし」と乾いた声で言った。胸がどきどきしていた。
「もしもし。 こちらは大木ですが」
「やあ」
「先輩ですか?」と大木は疑わしそうな声で言った。「なんだかいつもと声が違うみたいですが」
とより
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