Created on September 09, 2023 by vansw

Tags: No tags

200


おおき


してもらった。大木という男で、私の大学の三年後輩にあたる。とくに個人的に親しくしていた わけではないが、仕事がひけたあと何度か一緒に飲みに行ったことがある。無口で、どちらかと いえば無愛想だが、おそらく信頼できる人物だ。ずいぶん酒が強いらしく、どれだけ飲んでも顔 に出ない。


「先輩、お元気ですか?」と大木は尋ねた。 「急に会社を辞められたみたいで、正直びっくりし ました」


私は挨拶もせずに唐突に退職してしまったことを詫びた。いろいろ個人的な事情があるのだと 言った。大木はそれ以上は何も訊かなかったし、何も言わなかった。 そして私が用件を切り出す のを待った。


「図書館のことで少し尋ねたいことがあってね」


「私でお役に立つことなら」


「実は図書館で働きたいと思っているんだ」


大木は少し黙った。 そして言った。「それで、どのような図書館を念頭に置いておられるんで しょう?」


「できれば小ぶりの地方都市の、それほど大きくない規模の図書館がいい。 東京から遠く離れて いてもかまわない。独り身だからどこにでも簡単に移れるしね」


「地方の小規模の図書館······ずいぶん漠然としていますね」


「個人的な希望としては、海辺よりは内陸部の方がいいかもしれない」


大木は小さく笑った。 「不思議な希望ですね。 でもわかりました。 あちこちあたってみましょ


200