Created on September 09, 2023 by vansw

Tags: No tags

199


の椅子と、低いテーブル。 コートラック。 どれも簡素なものだ。 木製のキャビネットの上には古 典的な見かけの置き時計がある。 コンピュータらしきものは見当たらない。それだけだ。 場所の ヒントになりそうなものは何もない。


窓からは陽光が差し込んでいるが、色褪せたレースのカーテンが引かれていて、外の景色を目 にすることはできない。 壁にはカレンダーがかかっている。 山と湖の風景写真がついたカレンダ だ。 湖の水面に山が反映している。 でもカレンダーのページが何月かは読み取れない。その山 と湖がどこの山であり、湖であるのか、それも特定できない。美しい風景ではあるけれど、結局 のところどの観光地にもありそうな山と湖だ。しかしそのカレンダーの風景からすると、どうや らそこは内陸部であろうと推察される。


もちろんかかっているカレンダーの写真が、 その図書館の近隣の風景であるとは限らないが、 窓から差し込む太陽の光や、吸い込む空気の質から、そこは海辺よりは山あいに位置しているの ではないかと私は推測する。 そして これはあくまで私の個人的な感想に過ぎないがベレ 帽は海辺の土地よりは山地に似合いそうではないか。


夢の記憶を遡ることによって私が手にした情報といえば、その程度のものだった。 そこにあっ た情景は細かいところまで明瞭に思い出せるのだが、その図書館の名前も、それがどの地方にあ るかも皆目わからない。


私は誰かの助けをおそらくは専門家の実際的な知識を必要としている。


ついこのあいだまで勤めていた会社に電話をかけ、 図書館関係の部署にいる知り合いを呼び出


199 第二部