Created on September 09, 2023 by vansw
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少しでも華やかな雰囲気をつくり出そうと、中央のテーブルに大きな陶製の花瓶が置かれてい るが、盛られた切り花はどれも盛りを数日過ぎているように見える。 それでも日の光だけは予算 の制約を受けることなく、旧式の真鍮金具のついた縦長の窓から、日焼けした白いカーテンの隙 間を抜けて、惜しみなく室内に差し込んでいる。
窓際に沿って閲覧者のための机と椅子が並び、何人かの人々がそこに腰を据えて本を読んだり、 書き物をしたりしている。彼らの様子を見るかぎり、居心地は悪くなさそうだ。 天井は高く、 吹 き抜けのようになっており、上の方には黒々とした太い梁が見える。
私はその図書館で職に就いている。私がそこで具体的にどのような職務をこなしているのか、 細かいところまではわからないが、いずれにせよさして多忙というのでもなさそうだ。 急いで仕 上げなくてはならない課題や、今や遅しと解決を待っている案件は見当たらない。私は「いつか そのうちに済ませればいい」作業を、無理のないペースで進行させているだけだ。
図書館を利用する人々への直接の対応は、何人かの女性の職員が担当している ( 彼女たちの顔 は見えない)。 私は専用の部屋にいて、デスクに向かって事務作業をおこなっている。 書籍のリ ストを点検したり、請求書や領収書を整理したり、書類に目を通して印鑑を押したりしている。 その夢の中の職場にあって、私は格別満ち足りた思いを抱いているわけではない。しかし仕事 に不満を持ったり、退屈を覚えたりしているのでもない。 書籍の管理は長年にわたって習い覚え、 慣れ親しんだ仕事だ。 専門的な技術は身についている。私は目の前の仕事を片付け、問題を処理 し、おおむね円滑に日常を過ごしている。
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