Created on September 09, 2023 by vansw
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職を辞して自由の身になって二ヶ月ばかり、そのような動きを失った日常が続く。 終わりのな い凪のような日々だ。 そしてある夜、私は長い夢を見る。 それは実に久しぶりに見た夢だった (考えてみればその二ヶ月間、これほど長く深く眠っていたというのに、私は夢というものを見 なかった。 夢を見る力が一時的に失われてしまったみたいに)。
細部までありありと鮮明な夢図書館の夢だ。私はそこで働いている。といってもそれは、 高い壁に囲まれた街のあの図書館ではない。 どこにでもある通常の図書館だ。 その書架に並んで いるのは埃をかぶった卵形の〈古い夢〉ではなく、表紙を持つ紙の書籍だ。
大きな規模の図書館ではない。おそらくは小ぶりな地方都市の公立図書館というあたりだろう。 一見したところ――その手の施設がおおかたそうであるように潤沢な予算を与えられている わけではなさそうだ。 館内の様々な設備も、 書籍の揃え方も、 それほど充実しているとは言い難 いし、椅子や机も長年にわたってたっぷり使い込まれているようだ。 検索コンピュータみたいな ものも見当たらない。
193 第二部