Created on September 08, 2023 by vansw

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ことでしょう。 おれたちはなんといっても本体と影です。 離ればなれになって長くは生きられま せん。おれはかまいませんよ。だってもともと従属物に過ぎませんから」


「あるいは君は外の世界でうまく生き延びて、ぼくの代わりを務められるかもしれない。 見ると ころ、君にはそれだけの資格があり、知恵が具わっている。 どちらが影でどちらが本体か、その うちにわからなくなってしまうかもしれない」


影はしばらくそれについて考えていた。そして小さく首を振った。


「おれたちはどうやら、仮説に仮説を重ねているみたいですね。 何が仮説だか、何が事実だか、 だんだんわからなくなってきます」


「そうかもしれない。でも何かは必要なんだ。 行動を決断するのに必要な、 もたれかかれる柱の ようなものが」


「やはり決心は固いんですね?」


私は肯いた。


「でもそれはそれとして、何はともあれ最後までおれにつきあって、ここまで見送ってくれた」 「正直なところ、最後の最後までどちらに転ぶかは、自分でも定かじゃなかった。 この溜まりの 前に実際に立つまではね」と私は言った。「でももう既に心は決まったし、その決心が揺らぐこ とはないぼくは一人でこの街に残る。 君はここから出て行く」


私と影はお互いの目を見つめ合った。影は言った。


「長年の相棒として決してすんなり賛同はできませんが、どうやら決心は固そうだ。 これ以上説 得はしません。 ここに残るあんたの幸運を祈ります。 だから出て行くおれの幸運も祈って下さい。


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