Created on September 08, 2023 by vansw
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れはあんたの影なんだから」
「君の言っていることはたしかに筋が通っているみたいだ」
「じゃあ、そろそろ飛び込みましょう。 水泳を楽しむにはいささか季節外れですが」
私はそこに立ったまましばし沈黙していた。 もう一度厚い雪雲に覆われた空を見上げ、 それか ら影の顔を正面からまっすぐ見た。 心を決め、思い切って言った。
「しかしそれでも、ぼくはこの街を出て行くことはできない。悪いけど、君ひとりで行ってく れ」
179 第一部