Created on September 08, 2023 by vansw

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おれたちはここでひとつになり、溜まりを抜けて外の世界に戻ります」


私の耳の中に、先ほどの壁の声が再び鳴り響いた。たとえひとつ壁を抜けられても、その先に は別の壁が待ち受けている。 そして大きな笑い声。


「怖くはないのか?」と私は影に尋ねた。 「地下の暗黒の中で溺れて死んでいくかもしれないこ


「もちろん怖いです。 考えるだけでおっかない。しかしおれたちはもう心を決めたんです。 そも そもこの街をこしらえたのはあんたじゃありませんか。 あんたはそれだけの力を持っている。 実 際にさっき、目の前にそびえる堅い壁をくぐり抜けることができました。 そうですよね? 大事 なのは恐怖に打ち克つことです。 それにあんたは泳ぎが得意じゃありませんか。 息だって長く詰 めていられるし」


「しかし君はどうなんだ? 泳げるのか?」


影は力なく笑った。そして両手を広げた。 「弱ったな。 だっておれはあんたの影ですよ。あん たが泳げば、おれだって隣で同じように泳いでいた。 同じペースで同じ距離をね。 泳げないわけ がないでしょう」


そうだ、私たちは並んで、同じように泳ぐことができるのだ。私は空を見上げ、冷ややかな雪 を顔に受けた。


「君の主張には説得力がある」と私は影に言った。


影はそれを聞いて力なく笑った。「お褒めいただいて光栄です。 しかしこれはある意味、あん た自身が自分で考えて、自分に向けてしゃべっていることでもあるんですよ。なんといってもお


ResourA


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